オープンソースハードウェアを活用し、これまで市販されていた装置の価格から大幅にコストダウンに成功したリバネスのMakersToyPCR。近年注目を集める遺伝子検査を個人ができるようになるこの装置の開発は鳥人間と浜野製作所というハッカー・町工場とのコラボレーションにより実現した製品だ。
個人が遺伝子を調べる時代がやってくる
丸:MakersToyPCRは、「サーマルサイクラー」と呼ばれるライフサイエンスの実験機器です。温度変化により遺伝子増幅を行う装置で、遺伝子解析を行う上で欠かせません。これまでサーマルサイクラーは、どんなに安いものでも30万円くらいしてしまい、大学の研究現場でしか使われていませんでした。そこで、このサーマルサイクラーを安く作れないかと思い、久川さんに相談したのがきっかけでしたね。結果的に10万円という金額で市場に提供できる製品をつくれたのは非常によかったです。

アメリカで開発されたOpenPCR


ハッカーだけではできないものづくり
久川:今回のMakersToyPCRは、私たちにとっても初めての本格的なハードウェア開発だったのですが、浜野製作所やリバネスと連携しなければ開発できなかったと思います。MakersToyPCRでは、木材のほかに様々な金属部品を使っていますが、さすがに金属加工は私たちにはできません。そこでそういった部品を浜野さんにお願いして作ってもらいました。
浜野:最近、3Dプリンターが大きく注目されていて、なんでも作れるという誤解をしている人もいるようですが、そんなことはありません。作りたいものの形状や材質、コストを考えるとむしろ町工場でないとできないもののほうが多いんです。ちょっとした形状の違いでコストや耐久性も変わってくるので、量産まで考えてものづくりを行う場合、しっかりとものづくりのプロに相談することは非常に大事だと思います。
丸:それと、もう一つ大事なのは、使用者のニーズや装置の技術的に重要なポイントを明確にすることですね。研究者しか使っていないようなものなので、そこのポイントは実際に使ったことのある人間でないとわかりませんから。
久川: そうですね。そもそも、遺伝子増幅装置なんてものの存在も普通に生活をしていたら知る機会すらありませんからね(笑)私たちのようなハッカーは、新しいアイデアで試作品を作ることはできます。ただ、使用者のニーズや量産品まで考えた製造方法までを全部自分たちで考えることは難しい。そういった意味でもこれからのハードウェア開発は、様々な専門家のコラボレーションが重要になると思います。
プロトタイプを作り続ける新しい仕組み
丸:今回、MakersToyPCRと同時に、NinjaPCRという名前で鳥人間さんからSeeed Studioなどハッカー向けのサイトで販売しようとしている点も面白いですよね。

NinjaPCRのデモバージョン
浜野:私たちのところにも、最近個人の方からのものづくりに関する相談も増えてきていて、今年の3月には町工場版のFablabを墨田区にオープンする予定です。本気でものづくりをしたい人たちが、気軽にプロに相談できる環境を作ることで、もっとものづくりは加速していくはずです。
丸:今、ものづくりは大きな変化の時代を迎えています。ハッカーと町工場という、異なるカルチャーの人たちとともに、今後も時代を変えるような製品を作っていきたいですね。