創薬開発を促進する上で欠かせない化合物のライブラリーを構築する動きが世界的に進んでいる。アメリカでは 2004年からNIHが取り組みはじめ、全米で10カ所のライブラリー拠点が整備された。隣国韓国でも2000 年か ら取り組みが進められている。ここに来て日本の拠点確立が文部科学省「ターゲットタンパク研究プログラム」の一環として急ピッチで進む。その中心である東京大学生物機能制御化合物ライブラリー機構(長野哲雄機構長)に 足を運んだ。
■…世界に引けを取らない化合物ライブラリー
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岡部 隆義氏 (おかべ たかよし) 特任教授 |
東京大学生物機能制御化合物ライブラリー機構特任教授。1983 年東京大学薬学系大学院生命薬学専門課程(修士)修了、万有製薬株式会社入社。1987年薬学博士号取得。万有製薬株式会社つくば研究所探索評価研究室長、同研究所専門領域研究部長を経て、2007 年9 月より現職。 |
同機構の岡部義隆特任教授に案内されてエレベー ターで東京大学薬学部本館の地下1階に下りる。エレベーターのドアが開き、きれいに整備されたフロアが
広がる。高速大量スクリーニング(High Throughput Screening;HTS)機器など製薬企業などに見られる最新鋭の機器が整然と並ぶフロアの一角を、化合物の保管室が占める。2008 年3月に設置されたばかりのこの部屋では、外部から隔絶された保管庫の中で、15万種の 化合物全てがコンピューター管理され、温度と湿度を厳密にコントロールされた状態で保存されている。さらに2010年4月には20万種まで拡大される予定だ。ライブラリーは既に一般に開放されている。「50 件近くの問い合わせがあり、重複をあわせると30万サンプル近くを提供しています」と岡部特任教授は語る。
世界に目を向けてみると、2009 年11月5日付のNIHの報告では、同研究所が推進する化合物ライブラリー構築のプロジェクトであるMolecular Libraries Probe Production Centers Network (MLPCN)が30万種の化合物を揃えたと伝えている。また、韓国の化合物バンクであるKorea Chemical Bankは市販品の他、国内合成品や天然物抽出物などを国内の関連機関から収集し、17 万以上の化合物を保有している。欧州では欧州分子生物学研究所のChemical Biology Core Facility が2004年から稼働し、現在までにおよそ7 万9千の化合物を保有している。東京大学生物機能制御化合物ライブラリー機構はアメリカには及ばないものの短期間で世界のアカデミア研究機関にひけを取らない保有数を確立したことからも、力の入れ様が伺える。
■…化合物のクオリティーで上をいくライブラリーを目指して
機構が稼働し始めたのは2006 年。ライブラリーの数を15万種まで増やす中で力を入れてきたのが化合物の質の担保だ。「1990 年代のHTSが全盛だった頃は、一日にいかに多くのサンプルを測定できるかに重きが置かれていて、化合物の質に関してはあまり議論されていませんでした。」と岡部特任教授は振り返る。当時、製薬企業はコンビナトリアルケミストリーで合成されたものや、雨後の竹の子のようにたくさん現れてきたベンダーから化合物を収集したために、今でも化合物の構造に信頼性がおけない、また精製度が低いなど、質の悪い化合物ライブラリーをそのまま保有しているところもあるという。「それに対して私たちは、化合物の多様性、分子量、純度といった点を大切にしながらライブラリーを構築していますので、質の高さに対して自信を持っています。」と語る。例えば有名なRule of 5にあるように、経口医薬品の候補物質の目安とされる分子量500前後の化合物を集めるのではなく、誘導体を作った時に分子量500前後になることを意識してより小さい200や300といった分子量の化合物を収集している。また、ライブラリーで保存している化合物全てをLC-MSにかけ、その純度をプロファイルしている。1日に300サンプル程度を解析して、最終的に全ての保有物の情報をデータベース化する予定で作業が急ピッチで進む。岡部特任教授は大学在籍中に天然物の抽出を始めて以来、大手製薬企業で天然物、合成化合物のライブラリー構築をリードしてきたこの道30年近くのプロフェッショナル。その経験の中で培われてきた成功、失敗事例に基づくノウハウが、この機構のライブラリー構築に遺憾なく発揮されている。

ワンランク上の阻害剤研究をサポートするEZ-Reader
酵素の活性阻害を測定する際に基質と生成物の両方のシグナルを測定できるという他にはない独自のテクノロジーが、精度の高い測定を実現する。さらに、リアルタイムのカイネティク ス測定を自動化したことで基質のKm 値解析を簡便・高精度にした。PCと並んだ様子から もわかるように、場所をとらない点も利用者の利便性を高めている。写真の右に並ぶのは、 192 種のキナーゼに対応するProfilerPro kit。
■…スクリーニングの課題はデータの信頼性
信頼できるライブラリーから化合物を得たとしても、スクリーニング時のデータの取り方で候補物質を見逃してしまう可能性を岡部特任教授は指摘する。「創薬研究の初期段階で化合物の活性を評価する場合には、数μlという小さな液量で実験をする必要があります。そうなると実験操作のちょっとしたブレが結果のばらつきを生み、エラーバーはすぐに20%前後になってしまいます」。誘導物質を作ったところで、10〜20%程度の活性変化しか得られない場合には、実験操作が生む誤差に埋もれて本当に活性を持っている化合物を見落とす可能性があるのだ。
また、現在同機構がライブラリー構築と並行して進め ているキナーゼ阻害剤のスクリーニングにおいては、リン酸化反応の反応生成物だけを測定していると誤差が増 してしまう。そこで、同機構はEZ-Reader (キャリパーライフサイエンス社)を導入した。「EZ-Readerの良いところは、リン酸化反応後の反応生成物と基質の両方の量を測定できる点です。反応生成物しか測定できない他の製品と比べ、誤差を非常に小さく抑えることができます。 スクリーニング初期段階の化合物の阻害活性は低いことが一般的なので、エラーバーが大きいとリード化合物候補をみすみす見逃してしまいますが、EZ-Readerはその点で安心できます。」と高い信頼を寄せる。また実験誤差を減らす目的で、リキッドハンドリングを行う機器の選択にも細心の注意を払う。「前職でフィルトレーションによるアッセイを行っていた時に使用していたSciclone(キャリパーライフサイエンス社)はデータの質を向上させる上で非常に役立ちました。」と高い評価を寄せる。通常のフィルトレーション用の機器はプレートの下から吸引するタイプが多く、目詰まりが起きて実験誤差が生じやすい印象があるのだという。一方Scicloneの場合、プレートの上から加圧することで溶出、洗浄を行うため、目詰ま りがほとんど無く、精度の高いデータが得られるのだ。医薬品候補物質のスクリーニングという、小さなスケールで活性を測定する世界では、誤差の低減を約束してくれる安定した機器が最も強力な武器となる。

リキッドハンドリングでの精度向上に一役買うSciclone
Scicloneの強みは、装置デッキ上最大20カ所にマイクロプレートの他、マイクロプレートシェーカーや超音波洗浄器温調ユニット、加圧式フィルトレーションユニットといった数々のデバイスを自由に配置することで、さまざまなアッセイを高精度に実現できる点。しかも、操作は新開発のプログラムソフトウェア(マエストロ)によって自動化が可能なため、自分で構築したリキッドハンドリングを再現性よく行うことができる。さらにScicloneのジュニアともいえる、コンパク トなZephyrが発売された。デバイス等を設置できる場所を12カ所とすることで小型化した。高精度のリキッドハンドリングを省スペースにて効率的に実験を進めたい人にとっては強力な味方となるはずだ。
拡大図はScicloneで加圧式フィルトレーションユニット使用している時の様子。写真からデッキ上にデバイスやプレートを置くスペースが整然と並んでいることがわかる。
■…アカデミア発の創薬研究・開発へ
これまでとは異なる創薬研究の形として、アカデミアの研究者達によるライブラリーの活用を岡部特任教授は提案する。「日本には長年研究対象とされてきたタンパク質が多くあり、その中には創薬ターゲットとされてこなかったものも多く含まれています。それらタンパク質は新規の創薬ターゲットとなる可能性を十分に秘めているのです」。アカデミアの研究者がライブラリーの化合物を利用することで、新しい活性を持った化合物が見つかる可能性を指摘する。
「アカデミアの研究者で構成された創薬スクリーニングのチームがリード化合物を発見する。次はその最適化を行う。さらにその先では薬物動態の解析を行う。このように創薬研究開発の上のフェーズにシフトさせることが出来ると思うのです。アカデミアの研究者で創薬をどこまで進めることが出来るのか、そこに挑戦してみたいですね」。
岡部特任教授はアカデミアでの創薬チーム構築に向けた動きを始めた。結果はこれからだが、質の高い化合物ライブラリーを大いに活用し、アカデミアの強みを活かした創薬研究がどのようなアウトプットをもたらすのか、今後の展開が期待される。
東京大学生物機能制御化合物ライブラリー機構 |
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所在地 |
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 薬学部本館東京大学生物機能制御 化合物ライブラリー機構( 薬学部本館5Fに事務室があります)
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設立 |
2006年 |
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機構概要 |
世界に先駆けて生命科学研究の発展に寄与すると共に、大学発の知的財産を産業に活かし、ライフサイエンス研究に繋げることを目的に、設立された。独自の化合物の収集および保管・供給体制を構築しており、そのライブラリーは現在一般に公開されている。一般提供に関する詳細はこちらから。
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URL |
http://www.cbri.u-tokyo.ac.jp/index.html |
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お問い合わせ |
Tel 03-5841-1960 (内線21960)/ Fax 03-5841-1959 Mail こちらよりお問い合わせください。 |
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