08/04: 分子のありのままの動き〜1分子イメージングへ
分子のありのままの動き
〜1分子イメージングへ
オリンパス株式会社(以下、オリンパス)が世界に先駆けて製品化した全反射照明顕微鏡システム(製品名TIRFM)は低バックグランド、高シグナル蛍光感度を実現し、超高感度の1分子イメージングを提供する。この方法の開発者であり、さらに技術的に一歩深めた薄層斜光照明法の開発者である理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターの徳永万喜洋氏にお話を伺った。
電子顕微鏡から1分子研究へ
動的に振る舞う生体分子をそのまま観察することは、ライフサイエンス研究者の大きな夢。徳永氏もそんな夢を実現しようとする研究者だ。大学院時代から電子顕微鏡で研究を続けながら、生きた1分子の動きを見る重要性は痛感していた。そんな折、ERATO柳田生体運動子プロジェクト(1992〜1997年)を知る。心を決め、助手を辞めてメンバーに加わった。分子1個の動作を直接高分解能で測定するという目標に向けた研究が日夜続いた。当時テーマの1つに、1分子力計測でアクチン上を5.5nmのステップで動くミオシン1分子の動態観察があった。ナノレベルの繊細な計測が必要とされる。どうしても焦点の安定性や振動に対する強さを持った機器が必要だった。この要求を満たした機器こそが、当時ようやく発表されたIX-70だったという。「名機ですよ」と語る徳永氏は、第1号機のユーザーとして使い始めることになる。「使い始めてすぐにカスタマイズしてはいけないところまで変更してしまい、すぐに壊さないで下さいよと言われたこともありましたね」と笑いながら当時を振り返る。
無理だと思われた全反射
顕微鏡との出会いもさることながら、プロジェクトメンバーから無理、できっこないと言われていた光学系開発にあえて挑戦し、実現したことがその後の1分子イメージングを拓くことになる。それが全反射照明法だった。10数枚にも重ねた対物レンズの縁にレーザーを通した時に発生する光を利用して分子を観察するこの方法は、落射照明法と比べて約3.2倍のシグナル蛍光感度を示した。理論的にはマクスウェル方程式から4倍まで強くなることが導け、理論値の検証を最初に実験で証明したことになったと後から知った。研究成果はオリンパスによって製品化された。世界で初のTIRFMの登場だ。この時の挑戦は世界に技術を広げただけでなく、薄層斜光照明法につながる経験も徳永氏に与えることとなった。
光は弱くシグナルは強く
共焦点顕微鏡はレーザー光を1点に集光して分子の観察を行うため、光によるサンプルの損傷が大きく、また蛍光色素の退色が早い。そのため分子数が少ないタンパク質の場合、z軸方向の走査中に退色が進み三次元像の取得を困難にする。1分子の動態を調べる上では大きな障壁だ。全反射照明法の場合、照射する光は弱いので退色は遅い。また、バックグランドが低いので高感度の像を得ることもできる。しかし、観測範囲がエバネッセント光の届く50〜200m程度の距離に限定される(図1)。そのため細胞内部の分子を詳細に観察することが難しい。一歩進んだ技術の確立が必要とされた。さらなる進展は、国立遺伝学研究所での研究(1997年〜2007年)を待つこととなる。









