08/01: セラミドをめぐる産学の新たな展開、セラミド研究会発足
セラミドをめぐる産学の
新たな展開、セラミド研究会発足
コラーゲンとは異なる機能性素材として近年セラミドが新たに注目を浴びつつある。一方でその作用機構、吸収代謝機構など不明な点も多い。この中、セラミドが持つ新たな可能性を引き出そうと、2008 年に大学・企業の研究者が集まり「セラミド研究会」が発足した。発起人であり、理事長でもある北海道大学の五十嵐靖之氏に想いを伺った。
奥深いセラミドの世界
セラミドはスフィンゴシンのアミノ基にアシル基がついた構造をしており、スフィンゴ脂質の基本骨格をなす。生体内では様々な酵素の働きにより、1位のCにホスホコリンや単糖、およびシアル酸を含むオリゴ糖などが結合し、スフィンゴミエリンや種々の糖脂質など細胞膜を構成する膜脂質が合成される。そのため、膜脂質の一成分としてよく研究されてきた。近年セラミドの生理機能の1つとして皮膚の保湿機能、さらにはその異常としての乾皮症、アトピー性皮膚炎との関連が示唆されている。細胞のアポトーシスが誘導される際のシグナル分子としての役割も示唆され、セラミドの分解産物であるスフィンゴシンやスフィンゴシン1−リン酸とともにセラミドの膜成分として以外の機能も重要視され始めている。
高まる期待と求められる研究の進展
皮膚機能向上に繋がる機能性食品素材として注目されるセラミドだが、それはコラーゲンが真皮に、セラミドは角質層で働くと考えられている点が大きい。生産が難しいため、市場規模は2007年度で8tと規模は小さいが、2003年度から約160%増と需要は高い。五十嵐氏は今の問題点を鋭く指摘する。「現段階では効果だけが謳われ、その作用メカニズムや吸収代謝のメカニズムはほとんど解明されていません。一般に機能性食品は、予防医学の発展から見ても将来的には大きな可能性のある分野になりえます。そのためには信頼性を高める上で、科学的根拠を明らかにすることはますます重要になってきます」。
「最近、セラミド代謝が中性脂肪代謝の制御に関わることが分かってきており、肥満の治療薬としても利用が可能ではないかと考えています」と、創薬研究での新たな可能性も視野に入れる。
研究会発足
「長年研究を続けたスフィンゴ脂質の栄養学的問題や吸収代謝機構が明らかになっていないことを強く問題視していました」と、米国から日本に研究の場を戻した1989年当時のことを振り返る。それ以来、論文投稿や講演会などを通じてスフィンゴ脂質の栄養学の重要性について機会を捉えては訴えてきた。同じころ食品関連企業が機能性素材としてセラミドに注目し始めていた。こうした五十嵐氏など研究者の活動と産業界のニーズは、大学での基礎研究と産業界での応用研究の両方からセラミド研究を盛り上げる機運を高めたといえよう。そして2008年、五十嵐氏をはじめとする30人の研究者と15の食品関連企業を中心に「セラミド研究会」が発足した。
「まだ発足して間もないですが、日本国内外のアカデミアと企業の研究者が120人近く集まり、最先端研究から製品開発、マーケティングまで多岐にわたる話題が飛び交い非常に刺激的です。業種や研究分野のテリトリーがあっては重要な問題を見逃してしまいます。大学と企業の研究者が集まって議論を交わしているのは、この研究会のユニークさであり、面白さです」と、これまで準備会を含めて3回開催された研究会について語る。すでに研究会は企業の応用開発と、それに必要な基礎研究をマッチングさせる場に少しずつではあるが成長しつつあるという。
さらなる進展のために
五十嵐氏をはじめとする日本のセラミド・スフィンゴ脂質研究は、世界的に研究の中心の1つになりつつある。例えば北大次世代ポストゲノム研究センター創薬基盤イノベーションハブでは、生体内での活性のほか、抗肥満、抗アレルギーをターゲットにした医薬品が、札幌Bio-S知的クラスター事業ではセラミド含有機能性食品の開発が進められる。長年培われてきた基礎研究における国際的優位性がその原動力となっているといえるかもしれない。
「これからは研究会を世界の研究者との接点、若手の育成、アカデミアと民間の研究者が色々な議論をしていく場として大事にしたいです。そして日本をセラミドの創薬、機能性食品開発の中心としても盛り上げていきたいですね」。スフィンゴ脂質の生理作用、吸収代謝という基礎研究を常に自身の中心に据えながら、応用開発研究も含めてセラミド研究全体の発展も視野に入れる五十嵐氏。話の最後に「遺伝子、ゲノム研究の進展で生命科学は大発展したことは間違いないですが、それでもなおわからないことの方が多く、現在の生物学は物理学でいうニュートン力学の段階だと考えています。本当に初期の段階。これからアインシュタインがでてくるでしょう」と力強く語ってくれた。セラミド研究会の盛り上がりが、セラミド研究のこれからを加速するに違いない。









