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04/29: 設置の自由度を高めた植物インキュベータCLE-303の実力

Category: General | Posted by: nishiyama

 


「新しく発売した植物インキュベータCLE-303は100V、15Aで稼働できるということもあり、発売開始から非常に多くの方から注文をいただいております」と株式会社トミー精工の商品企画部、城川氏は胸を張って説明する。現場の声と照らし合わせると、ニーズをよく捉えていることが見えてきた。


 


家庭用電源レベルでの運転を実現


トミー精工というと、オートクレーブや微量高速遠心機のイメージが強い方も多いだろうが、実は植物インキュベータも古くから扱っている。照度、温度、湿度、CO2濃度の調節といった植物インキュベータに必要な要素をそろえた製品を出してきた。それに加え、デジタルパネルによるパラメータ設定の簡易化、最大99ステップを1つのプログラムとして設定できる柔軟性※1など、研究者が細かい条件設定を簡単に行えるよう、心配りを行いながら製品を進化させてきた。


そして満を持して新たに登場したのが、CLE-303だ。100万円を切る価格設定ながら、庫内容量300L、照度は最大15,000lxというスペックを持ち、シロイヌナズナなどであれば、発芽・馴化・栽培まで十分行うことができる。さらに、微妙な照度制御が必要な場合には、設定1(蛍光灯2本点灯)で400-3000lx間の120段階、設定2-7(蛍光灯10本点灯)で1500-15000lx間の120段階の範囲で設定が可能な照度調節機能が役に立つ。しかし、この装置の最大の特長はなんといっても設置の自由度を高めたところにある。100V、15Aという家庭用電源と同等の電源で稼働できるようにしたことにより、電源の種類を気にすることなく配置できるようになったのだ。



 


研究者との縁


東洋大学生命科学部で植物の二次代謝産物の生産やその制御機構について研究を行う下村講一郎教授(植物機能研究センター長兼任)は、国立衛生試験所(現、(独)国立医薬品食品衛生研究所)の筑波薬用植物栽培試験場に在籍時からトミー精工の植物インキュベータを使用する。実は下村教授、トミー精工のオートクレーブではお馴染みの丸いパンチ穴の開いたオートクレーブかごの発案者でもある。当時使用していたオートクレーブかごは、太い針金で組み立てられていて底が安定していなかった。そこでパンチ穴の開いたステンレス板で作製したかごを提案したところ、すぐに試作された。それがスタンダードになり現在に至ったそうだ。現場のニーズを製品に素早くフィードバックしていく同社の姿勢が現れたエピソードの1つといえるだろう。


下村教授は、九州大学薬学研究科博士課程在籍中、世界に先駆けて薬用植物の茎頂培養に成功した。以来、様々な植物を培養しながら、種苗の増殖、有用成分の生産制御やその含量分析の方法を確立してきた。「植物の生い立ちに合わせて、培養条件を変えてやる必要があります。たとえば、薬用植物であるトコンは、ブラジル原産で、熱帯雨林の下草として生息しています。背の高い樹木が日光を遮り、トコンは強い日光を浴びることはありません」。培養系でも、強い光を当てると葉にダメージを受けてしまうため、他の植物とは別のインキュベータで照度を落として生育させるのだ。下村教授の研究室にある20種類以上の有用植物の維持に、トミー精工の植物インキュベータが一役買っている。



 


ユーザビリティで研究を進める


「学科新設に伴って新設した実験棟を中心に、CLE-303を18台導入しました。培養室のほか、学生実習室にも設置しています」。従来機器同様に日長や温度、照度などのパラメータ設定が簡単なことに加え、蛍光灯、フィルタの清掃に手間がかからないことも導入のポイントとなった。また、庫内を流れる風もあまり強くなく、できる限り植物に影響がでないよう設定されているという。研究にとって重要な、細かいポイントまで設計の注意が行き届いている点が評価されている。また、「電源が100V、15Aなのも、とてもいいですね。研究室内にあるほとんどのコンセントから電源をとれるので、自由に移動させることができるCLE-303は使い勝手がいいです」。


近年になり、照度の変化に伴う葉身や葉柄の形態変化、日長と開花制御など、光の条件に関連した植物の遺伝子発現メカニズムについて様々な知見が得られつつある。CLE-303の柔軟性は、こうした様々な条件検討が必要な植物研究で強みを発揮するに違いない。


 


(BioGARAGE vol.08より)


 



04/24: 組織移植の可能性を広げるUpCell®

Category: General | Posted by: nishiyama

 


培養した細胞を細胞間接着を壊さずいかに高い効率で組織に定着させるかは、再生医療の技術で重要な要素の1つだ。株式会社セルシード(以下、セルシード)が提供するUpCell®は、細胞をシート状で取り出して患部に貼り付ける、「細胞シート工学」によってこの課題を克服した。再生医療研究を国内で牽引する東京女子医科大学で、歯根膜シートを利用した歯周病治療に取組む岩田隆紀氏の研究から、細胞シート工学の有効性が見えてきた。


 


歯根膜を利用した再生医療研究


再生医療研究の現場では、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞など様々な細胞への分化が示唆されている間葉系幹細胞(mesenchymalstemcell:MSC)と、それ以外の分化能を有する細胞を利用した臨床計画が進行している。ヒト幹細胞臨床実施計画を審議する厚生科学審議会科学技術部会のホームページでは、MSC、末梢血単核球細胞、口腔上皮細胞などを利用した22件の申請(複数機関での実施は1つの申請とした)が公表されている※1。


岩田氏が再生医療に用いる細胞として注目するのは、歯根膜組織だ。この組織は歯とそれを支える顎の骨(その部分を歯槽骨と呼ぶ)の間に存在し、歯周組織への栄養補給などを担うとされる。歯根膜組織には多能性を示す幹細胞が存在することが既に報告されており、注目される組織の1つだ。岩田氏の研究室ではこの性質を利用し、歯周病などで失われた歯周組織の再生を実現する研究が進められている。


 


組織移植に強さを発揮する細胞シート工学との出会い


大学院時代から歯周組織の再生に関わる生化学・細胞生物学を学んできた岩田氏が細胞シート工学を利用し始めたのは、2007年。この技術のメッカである東京女子医大に異動してきた時からだ。「イヌの歯根膜シートを作製した時は、移植する細胞の量を増やしたかったということもあり、シートを3層にしました」という言葉通り、歯根膜シートはきれいに3層を成す※2(図1A)。シート状で細胞の回収が可能なため、患部に移植した時の拡散の心配が無いことに加えて、定着させるためのスキャフォールドを必要としない。細胞間接着を保持し、マトリックスリッチな状態で移植することが出来る点が歯根膜細胞シートの強みだと岩田氏は指摘する。



 


細胞シート工学をサポートするUpCell®とUpCell/RepCell専用ThermoPlate®


この研究を強力にサポートしているのが、UpCell®だ。細胞シート工学の要である温度感受性ポリマー(PIPAAm)を、セルシード独自の技術によって容器の底面に定着させたのがこの製品だ。32°Cよりも高い温度では疎水性、低い温度では親水性となるため、37°Cでは(ヒトの)培養細胞を底面に定着させて培養できる。容器からはがす時は、温度を20〜25°Cに下げて静置するだけで良い。トリプシンなどの酵素処理も必要ないため、細胞間の接着は保持され、細胞外マトリックスも維持される(図2A)。底面の細胞外マトリックスが糊の役割を果たし、短時間での患部への生着を可能にしている。歯根膜シートではこの特性が存分に発揮されているわけだ。



さらに、新しく発売されたUpCell/RepCell専用ThermoPlate®が細胞シート作製をより効率化する。「ヒト歯根膜シート作製には14日間の培養が必要ですが、その間3日おきに培地交換を行います。その際、この製品のおかげで37°Cに保ったままの培地交換が可能になりました。また、UpCell/RepCell専用ThermoPlate®を2枚用いて、サンドイッチのようにUpCell®を上下から挟み込むと、UpCell®の蓋が曇らないので、観察の際に非常に役立っています」。


 


いざヒト臨床へ


技術面での環境も整い、臨床応用へ向けた素地は固まりつつある。人工的に歯槽骨を削って歯周欠損を起こした状態のイヌを使った前臨床試験は、既に一定の成果を見せている。骨補填剤であるβ-TCP(β-リン酸三カルシウム)のみのコントロールと、β-TCPと歯根膜シートを合わせたもので歯周欠損の回復について比較を行った。すると、後者でのみ完全に歯周欠損が回復していることが観察されたのだ※2(図1)。さらに、この人工的な歯周欠損で失われた歯の周りのセメント質、歯根膜だけでなく、歯槽骨といったすべての歯周組織の再生が見られた。つまり、骨を作るのにもこの薄い細胞シートが役立っているのだ。


「2011年中に患者さんに対する臨床研究を開始する予定です」と、辞典程の分厚い臨床試験の申請書類を見せながら、今後について説明してくれた。細胞移植の場合にはがん化の危険性も1つの争点になるが、この点に関してはすでに安全性を確認している※3。インタビュー後の2011年1月4日、厚生労働大臣の承認が下り、いよいよ臨床が本格化する。今後2年間で10症例が目標だ。


再生医療の現場では、様々な疾患で臨床研究が始まっている。その裏に隠れて見えないが、細胞シート工学のような新しいコンセプトの技術がその後押しをしている。臨床研究での成功事例は、技術の信頼性獲得に大きく寄与し、それは患者の笑顔に直結することとなる。今後の研究成果に大きな期待を寄せたい。


 


※1 厚生労働省ホームページ 「再生医療について」 (http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/iryousaisei.html)より


※2 Iwata, T. et al. (2009). Periodontal regeneration with multi-layered periodontal ligament- derived cell sheets in a canine model. Biomaterials. 30, 2716-2723.


※3 Washio, K. et al. (2010). Assessment of cell sheets derived from human periodontal ligament cells: a pre-clinical study. Cell Tissue Res. 341, 397-404.


 


(BioGARAGE vol.08より)


 



04/19: ゲノム上で展開されるダイナミックな生命のドラマを追う

Category: General | Posted by: nishiyama

 


エピジェネティクス研究の成果は、ゲノム上で起こるドラマが想像以上にダイナミックであることを示している。組換えのhot spotに注目しながら、クロマチン構造・エピジェネティクスの変化と遺伝子発現・ゲノムDNAの再構成の関係について調べるている東京大学大学院総合文化研究科の太田邦史氏の研究から、その一端を垣間見ることができる。


 


hot spotとクロマチン


ゲノムDNAの子孫継承に重要な減数分裂期の相同組換えにおいて、DNA二本鎖の切断(DNA-double strand break;DSB)が起こる場所(hot spot)が、クロマチン構造と関連していると考えて太田氏が研究を始めたのは1993年頃。「指導者の柴田武彦氏と長年共同研究を行っていたフランスのAlain Nicolas氏が来日した際に、hot spotとクロマチン構造について議論したことがきっかけで、Nicolas研で2ヶ月間研究をすることになりました。彼らは出芽酵母の組換えhot spot変異株を大量に持っていたので、変異株のクロマチン構造を調べてみればクロマチンと二本鎖切断の関係が分かるのではないかと期待していました」。この研究から、hot spot周辺のクロマチン構造が変化して緩むことでDSBが起こりやすくなることを見いだした※1。


共同研究者との縁はさらなる発見をもたらすことになる。サバティカルで日本を訪れていたスイスのJürg Kohli氏から、ade6-M26という分裂酵母変異株では、点変異によってade6のORF領域にできたATGACGTという7塩基対の配列が、減数分裂時の組換えhot spotを形成することを知った。クロマチン構造の関与を予感して研究室の水野健一氏らと行った実験により、見事この7塩基対がクロマチンの再構成を促進することが示された※2。


 


ヒストン修飾がスイッチを入れる


ade6-M26の系を利用することで、hot spot、クロマチン再構成、DSBの関係の詳細が見えてくることになる。転写の活性化とヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HATs)によるヒストンのアセチル化が共役していることから、太田氏と研究室の山田貴富氏らはade6-M26のクロマチン再構成にもHATが関与しているとにらんだ。ade6の遺伝子座付近を調べると、ade6-M26株は対照比較株に比べて高いヒストン・アセチル化が起こっていた。同じパターンで修飾を行う出芽酵母のHATであるGcn5の配列情報をもとに、機能未知の分裂酵母SPAC1952.05に焦点をあて、このタンパク質がHAT活性を有することを示した。この遺伝子をノックアウトした株gcn5∆がade6-M26のhot spot付近のヒストン修飾、クロマチン再構成とDSB形成に抑制的に働いたことから、ATGACGTの配列依存的にGcn5が呼び込まれ、その結果ヒストンアセチル化とクロマチン再構成、DSBが起こるというモデルが浮かび上がってきた※3(図1)。



 


さらなる発見


その後研究室の廣田耕志氏らと、グルコース飢餓に応答して著しく活性化される糖新生関連酵素遺伝子fbp1(+フルクトース-1,6-ビスフォスファターゼ)の、5’側にある2kbpほどの非コードDNA領域のクロマチン構造についても研究を進めた。そして、その領域のクロマチン構造がグルコース飢餓時に再編成されることを見出した。「実は、非コード領域にade6-M26のhot spot配列と同じ配列が存在しています。この配列にCREB/ATFタイプの転写因子Atf1-Pcr1が結合して、hot spotの場合と同様にヒストン修飾酵素やクロマチンの修飾因子を呼び込んでくることがわかりました。このことから、CREB/ATFタイプの転写因子が転写活性化と組換えの両方に効くという多面的な側面が見えてきました」。


この話にはさらに続きがある。fbp1+の転写を観察すると、遺伝子の1kb以上上流から長鎖mRNA型非コードRNAが当初弱く転写されている。グルコース飢餓後、時間が経つにつれこの非コードRNAの転写開始点とRNAポリメラーゼIIの結合部位が下流側にシフトし、それとともに遺伝子上流域のクロマチンが段階的に開いた状態に変わることが示された※4。現在、この長鎖mRNA型非コードRNAとエピジェネティクスの関係も調べている。hot spotに注目して始めた研究から、非コードRNAを介した転写活性化の機構も見えてきた。


 


ますます面白くなるエピジェネティクス


近年は、個体間の塩基配列多型を示すハプロタイプ地図(HapMap)を調べることで、組換えhot spotの場所を推定できる。伝統的な交配を用いた遺伝学的解析に加え、HapMapを活用することで、マウスやヒトにもhot spotが多数存在することがわかってきた。最近、マウスのhot spot近傍にあるコンセンサス配列にH3K4トリメチル化酵素PRDM9が結合し、hot spotを形成する可能性が、BernarddeMassyらによって報告された※5。「われわれが酵母で発見したエピジェネティクスによるゲノム再編成の制御が、ヒトやマウスでも見出されたことから「、DNAの遺伝」と「エピジェネティクス」の相互作用の普遍的な可能性が示唆されつつあります。大胆に拡大解釈すると、遺伝は環境の影響を受ける可能性があると言うことです。遺伝学・エピジェネティクスの研究は新たなステージに来ています」。


今後のエピジェネティクス研究が展開していく上で重要な要素に、太田氏は高機能の抗体をあげる。ヒストン修飾の組合せによってゲノム上で起こる現象も変わってくるため、例えば2つの修飾を同時に検出できるような抗体が存在すればより詳細なことが明らかになってくるだろう。現象を捉える上でキーとなる技術開発は十分ではなく、さらなる改良が求められており、次のステージを切り拓く新しいアイデアが待望されているのである。太田氏は未発表のエピジェネティクスの研究成果もあわせて、新しいアイデアを暖めているそうだ。今後の研究の進展に期待が高まる。


 


※1 Ohta, K. et al. (1994) Changes in chromatin structure at recombination initiation sites during yeast meiosis. EMBO J. 13(23), 5754-5763.


※2 Mizuno, K. et al. (1997) The meiotic recombination hot spot created by the single-base substitution ade6-M26 results in remodeling of chromatin structure in fission yeast. Genes Dev. 11(7), 876-886.


※3 Yamada, T. et al (2004) Roles of histone acetylation and chromatin remodeling factor in a meiotic recombination hotspot. EMBO J. 23(8), 1792-1803.


※4 Hirota, K. et al. (2008) Stepwise chromatin remodelling by a cascade of transcription initiation of non-coding RNAs. Nature. 456(7218), 130- 134.


※5 Baudat, F. et al. (2010) PRDM9 is a major determinant of meiotic recombination hotspots in humans and mice. Science. 327(5967), 836- 840.


 


(BioGARAGE vol.08より)


 



04/14: 「アイデアを形に」—マイクロテック・ニチオンの挑戦

Category: General | Posted by: nishiyama

 


コロイド粒子の表面電荷と粒径分布を測定できるゼータ電位測定装置「ZEECOM ZC-3000」を利用した研究テーマに引き続き、株式会社マイクロテック・ニチオンから新たな研究費の募集が始まる。テーマは同社のルミノメーター「Lumicounter 2600」を利用した研究。研究者とのコミュニケーションによって現場に合わせた製品をチューンしてきた同社だけに、今回も新たな研究のニーズを具現化していくことに意欲的だ。


 


創業時から続く伝統の機器


研究者の頭の中には製品への要望が溢れている。それを引き出し、具体的な仕様に落とし込む。これがマイクロテック・ニチオンの研究開発の基本姿勢である。同社で扱っているどの製品にも裏に隠れた研究者のニーズがあり、その返答を機器という形で世に出している。高い技術力をベースとした一貫の取組みは研究者からの信頼を集め、今や多くの大学・研究機関と製薬や材料系の企業で同社の機器が活躍する。


「創業時に初めて手がけたのがルミノメーターでした」と、会社の歴史について語る本田雅秀氏(同社社長)の言葉の通り、ルミノメーターはマイクロテック・ニチオンにとって特別な存在だ。35年以上にわたって国産のルミノメーターの草分け的存在として業界を引っ張る中で、様々な研究者の声に触れ、そして応えてきた。ルミノメーターのブラッシュアップの歴史は、マイクロテック・ニチオンの歴史そのものと言っていいだろう。オワンクラゲから抽出される発光物質の研究でノーベル賞を受賞された下村修先生が発見したエクオリン。これを用いた植物細胞のカルシウムイオンの移動に関する研究では同社の撹拌機能付きルミノメーターが絶大な信頼を得ている。


 


ニッチにも対応できる技術ソリューションプロバイダー


ホームページの製品説明にずらりと並ぶ様々な測定アプリケーションは、マイクロテック・ニチオンが研究者のニーズにいかに応えてきたかを感じさせてくれる。分注や反応溶液の撹拌、温度制御といった他のメーカーの仕様にもある機能だけではないところが、同社の真骨頂だ。


フローインジェクションで消光の早いサンプルを扱った時にトータルの発光量を測定することのできる「スパイラルフローセル」は極めて早い発光反応を測定する時に威力を発揮する。また、外部機器との接続を完全に遮光し行う暗箱と検出系を組み合わせた電磁励起発光の検出システムなどのニッチな要求を満たすアプリケーションが並ぶ。


「深海に棲息する微生物の解析をするために、ATP法の生物発光と定量PCRを現場で測定するシステムを構築したという要望を受け、検出系を作り上げたこともありましたね」。アプリケーション開発を担う伊東康平氏が語るエピソードから、多様なアプリケーションが生まれる瞬間が垣間見える。



 


新たな機能で時間の壁に挑む


Lumicounter 2600で新たに実装した機能は0.01秒という高い時間分解能だ。伊東氏の説明にも力が入る。確かにこの時間分解能は、0.1秒単位からの測定が多い市販のルミノメーターの中で群を抜いている。この機能をうまく活用することで、これまでは見えていなかった化学反応の過程にも迫ることができるのではないかと伊東氏らは期待を寄せる。「例えば、ラジカルなどミリ秒の寿命しか持たないような基質や触媒が関係した反応を解析する場合、波長分解との組合せで発光現象のメカニズムを段階的に解明する場合などには、この装置が力を発揮します」。


 


研究者とともに次のステージへ


昨年度実施したリバネス研究費について、機器の利用法を含め審査の過程で色々な研究者と研究内容について話ができたことが印象深く、また楽しい経験であったと伊東氏は振り返る。研究費に採択された京都薬科大学武上茂彦氏とは、研究に関してディスカッションを繰り返している。それだけにとどまらず、Lumicounter 2600の試作機も使用してもらうことで、製品の共同開発も進んでいるそうだ。「Lumicounter 2600を活用して新しい発見をしてもらいたいということはもちろんです。それに加えて、現在世にあるルミノメーターに無い、新しい機能をもった装置をゼロから開発するところを一緒にやってみたいといった、募集要項から一歩踏み出したようなチャレンジングな申請があっても面白いですね」。


研究費をきっかけに始まったコミュニケーションの中から、研究者のアイデアとマイクロテック・ニチオンの技術力を結集した新しいルミノメーターが生まれてくることに期待したい。


 


(BioGARAGE vol.08より)


 



04/09: 進化する研究を伝えるメディアの現状

Category: General | Posted by: nishiyama

 


『真珠の耳飾りの少女』、『牛乳を注ぐ女』など光や質感を絶妙に表現した作品で知られる、フェルメール。彼と同年に生まれ、同郷の出身者であり、遺産管財人でもあったアントニ・ファン・レーウェンフックは、独自に作り上げた顕微鏡で微生物や精子など生物学的に重要な発見をもたらした。博物学と絵画という異なる世界で、見る(観る)ことを通して世の中に影響を与えた2人には偶然の縁を感じさせる。それから300年以上経った今、技術の進歩は動くものの世界を多くの人のもとに届けるようになっている。さらに、最近急激に広まっているYouTubeに代表される動画配信はそのスピードを加速する。その現状を振り返る。


 


動画制作の老舗


顕微鏡のライブイメージングの発達で、細胞で起こる現象を動画におさめることは研究の世界では一般的になってきている。また、そうした映像がテレビの科学番組で使われるようになってきた。しかし、映像の歴史を振り返ると半世紀以上前からすでに高いレベルで動画撮影が実現されている。今から50年以上前に作られた科学映画『ミクロの世界』は、結核菌と白血球が闘う様子を詳細に記録し、その素晴らしさから1958年のベネチア記録映画祭のグランプリに輝いた。小林米作氏をはじめとするその時のスタッフが中心になって1967年に立ち上げた株式会社ヨネ・プロダクション※1は、独自に開発した微速度撮影技術を駆使して数多くの科学映像を作り上げてきた。増殖して視野を埋め尽くす乳酸菌、動き回るボルボックス、軸索を伸長・退縮させる神経細胞など様々な映像が克明に収められている(図1)。



 


CGが再現する細胞内の世界


科学映像の世界は長くフィルム、ビデオ撮影が支えてきたが、コンピューターグラフィックス(CG)の発達によって、研究成果を映像に反映させられるようになってくる。例えば、NHKが制作した『驚異の小宇宙人体』では、受精、免疫系の仕組みが、CGを巧みに使って解説されている。さらに、続編として1999年に放送された『驚異の小宇宙人体III遺伝子』では、DNAの配列情報が読み取られる様子などがCGで表現されるようになり、研究者しか知り得なかった細胞内の現象を、視覚を通して多くの人に伝えることとなった。


この分野では、京都大学大学院工学研究科出身でサイエンスライターの経験を持つ辻野貴志氏が興したサイエンス・グラフィックス株式会社※2が実績を伸ばしつつある。映像制作の場合、研究の背景を理解できるかどうかは、作品のクオリティにもつながってくるため、同氏の経歴は依頼側としては安心できる1つの要素になるだろう。また、研究成果を視覚に訴える媒体で表現することで、一般の目につく機会も増えるはずだ。


 


拡大する裾野


以前は論文のsupplemental dataとして動画がオンラインにアップされている程度であったが、ScienceやCellのホームページ上では研究成果の概略を映像で観られるようにサイトが進化している。特にCellの場合は、YouTubeを利用して研究者のインタビューも交えながら研究を紹介するといった独自の取組みが始まっている。こうした変化は論文のダウンロード時にサイトにアクセスして実感している方も多いのではないだろうか。オンラインを通じた情報の流通はさらに加速が進む。『Journal of Visualized Experiments(JoVE)※3』はその一例だ。ピアレビューのオンライン映像コンテンツで、論文の形式をとっている。実験手法に関する情報が映像で紹介され、PubMedにも登録される。初歩的な実験手法はもちろんのこと、神経科学、免疫学、生命工学など、投稿数の増加に伴って、分野が拡大しているところだ。国内に目を向けると2007年7月から始まった『統合TV※4』がアクセス数を伸ばし、平均して約15,000アクセス/月を記録している。扱う内容は、プロトコルの解説映像から学会講演と幅広い。これらのサイトは研究者を対象に作られているが、視点を変えれば、より多くの人を対象にしたサイトに生まれ変わることも可能だろう。


2010年6月に内閣府総合科学技術会議が3,000万円以上の公的研究資金を獲得した研究者にアウトリーチ活動を義務づける決定を行うなど、出口を設けないままにアウトリーチという言葉だけが一人歩きし始めている感もある。既存のメディアを利用するだけでも、研究者にとってメリットがあり、かつ一般の人にも研究を伝えることのできる活動は可能なのではないだろうか。


 


※1 ヨネ・プロダクション HP http://www.yoneproduction.jp/


※2 サイエンス・グラフィックス HP http://www.s-graphics.co.jp/


※3 JoVE HP http://www.jove.com/Main.php?sectionid=-1


※4 統合 TV HP http://togotv-curated.dbcls.jp/


 


(BioGARAGE vol.08より)



 



04/04: 教育現場の活性化を狙った使用済み機器の再利用

Category: General | Posted by: nishiyama

 


「大学で使わなくなって、処分する予定のサーマルサイクラーなどの機器を教育現場で再利用してみたらどうか。古くなってリプレースするだけの機器なら、まだ十分に使えるはず」。きっかけは社内での他愛も無い会話からだった。株式会社リバネスでは2002年の創業以来、絶えず学校教育現場で実験教室を実施してきた。そして今、研究を通してアカデミアと教育現場をつなぐ新しい取組みに、日本中の研究者と挑戦していきたいと考えている。


 


研究を体験するプログラム


独立行政法人科学技術振興機構(JST)が推進している「サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト」は、プロジェクトの概要を「児童生徒の科学技術、理科・数学に対する興味・関心と知的探求心等を育成することを目的として、学校等と大学・科学館等との連携により、科学技術、理科・数学に関する観察、実験、実習等の体験的・問題解決的な学習活動に対して支援を行う」と説明している。また、独立行政法人日本学術振興機構(JSPS)が進める「ひらめき☆ときめきサイエンスKAKENHI」はプログラムの位置づけを「研究機関で行っている最先端の科研費の研究成果について、小学校5・6年生、中学生、高校生が、直に見る、聞く、ふれることで、科学のおもしろさを感じてもらう」こととしている。いずれのプログラムも日頃の学校で行われる授業の枠の中では体験できないことを直に経験することができるという意味で、子供たちが科学に関心を持つきっかけを与えているといえるだろう。しかし、費用面や実施時期の制約もあり、体験は一過性のものにとどまりがちだ。


 


中高生を対象にした新たな動き


2010年6月、JSTは新たな取組みとして、中学、高校の科学部に対して中学の場合は年間30万円(税込み)、高校の場合は年間50万円(税込み)の予算を3年間にわたって支給する「中高生の科学部活動振興事業」を発表した。生徒と大学教員、専門家・有識者のネットワークが構築される可能性や、支援終了後に継続的な取組みができるかどうかを採択の基準に設けている。採択校の生徒が研究者と継続的にやり取りをする、あるいは自分たちのアイデアを仲間と共有しながら磨いていくことで次の人材を育成することを目的としている。リバネスでも採択された高校の1つと一緒になって、特定外来種に指定されているアルゼンチンアリについてPCRを利用した系統解析調査を行った。生徒たちのモチベーションは高く、来年、再来年とさらに調査範囲を広げて解析を行っていく予定だ。


 


研究者から始まる3つのR


新たな取組みは始まっているものの、研究をベースにした経験を学校で行おうとした場合、サーマルサイクラー1台とはいえ、科学実験などに使える予算が年間数万程度の学校現場にとっては高嶺の花。その都度レンタルなどが必要になってくる。一方で、大学の研究現場を考えてみると、サーマルサイクラーなどの汎用機器は既に一般化している。さらに、機器の性能向上もあってリプレースで処分されるものも少なくない。そこで出てきたアイデアが、冒頭に挙げた機器の再利用だ。研究(Research)で使われていた機器を、教育現場で再利用(Reuse)することで、研究に関心を持っている中高生の取組みを後押しする(OutReach)。この活動は、アカデミアの研究者と教育現場を直接つなぐコミュニケーションの1つになる以外に、サンプルの数を必要とする系統解析や、スクリーニングでも力を発揮するのではないかと我々は期待している。機器を受け取った中高生が、現役の研究者と一緒になって研究を進める。その中から次の研究を担う人材が生まれ、次の研究を引っ張っていく。この取組みが日本の研究現場の活性化に一役買えれば、我々はそう願っている。



(BioGARAGE vol.08より)


 



03/29: 神経細胞への遺伝子導入 進化するエレクトロポレーション

Category: General | Posted by: nishiyama

 


神経細胞への遺伝子導入をより簡便に行うことができるエレクトロポレーション法が登場した。従来のエレクトロポレーションでは細胞をトリプシン処理などで浮遊させる必要があったが、Lonza社が開発したBasic Neuron 4D-Nucleofector X AD kitでは接着した状態のまま、直接、遺伝子導入が可能である。本法とともに、本キットの使用に必要な4D-Nucleofector遺伝子導入システムについて紹介する。


 


世界が認めたNucleofector


細胞への遺伝子導入は遺伝子・タンパク質の機能を調べる上で重要な技術である。そのため、昔から様々な遺伝子導入方法が開発されてきた。リン酸カルシウム共沈殿法に始まり、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、ウイルスベクター法など、研究者は使用する細胞、導入効率、コスト、簡便性などから最も良い遺伝子導入法を選択することになる。


Amaxa Biosystems社(現在はLonza社)が開発したNucleofectorシステムはエレクトロポレーション法を独自に改良した装置で、特に初代細胞と遺伝子導入が困難であった細胞への遺伝子導入が可能な装置として2001年に登場した。Nucleofectorは専用試薬と電気パルスを組み合わせ、ウイルスを使わず、簡単に、高効率で遺伝子導入できる利点があり、現在では680種類以上の細胞で導入実績を持つ。今では世界中の研究者に使用されており、特に神経系・免疫系の研究分野で活用されている。


 


4D-Nucleofector


2010年、Lonza社から新たに発売された遺伝子導入システム4D-Nucleofector(図1)は、従来の高い技術はそのままに、より幅広いアプリケーションに対応できるように開発されている。



特長は3つ。1つ目は、電極の素材をアルミニウムから導電性の樹脂へ変更したことだ。細胞への金属イオンの影響を除き、より細胞に優しい遺伝子導入を実現している。2つ目は、少量細胞数から大量細胞数まで実験できるように、サイズの異なる2つのキュベットに対応したことである(図2)。



少量細胞用のキュベットでは一度に16サンプルの処理が可能である。数を多く取れない貴重な細胞での実験や、siRNA導入のように比較対象サンプルが多い場合に有効である。3つ目は、神経細胞をキュベット(16ウェル)に接着させたまま遺伝子導入できる専用試薬キット(ADキット)を追加したことである。


本システムには96ウェルプレート対応の96-well Shuttleデバイスのほか、24ウェルプレートに対応したYユニット(開発中)などの増設オプションが接続可能となっている。


 


進化するエレクトロポレーション


4D-Nucleofectorの売りの1つであるBasic Neuron 4D-Nucleofector X AD kitは、接着したままの細胞にエレクトロポレーションによる遺伝子導入を可能にした。従来のエレクトロポレーション法では細胞を剥離・単離し、懸濁状態にする必要があった。そのため、初代神経細胞への遺伝子導入では、単離したてのフレッシュな細胞で遺伝子導入し、培養・解析するしかなかった。本キットは神経細胞を接着させたまま遺伝子導入できるため、例えば、単離したラット海馬神経細胞をキット付属の16ウェルのキュベットで前培養し、2日後にそのキュベットのまま装置にセットして遺伝子導入を行うこともできる。この16ウェルキュベットではNucleofectionで遺伝子導入する前後に最高14日間の培養が可能なため、神経細胞の異なる発達段階で遺伝子導入し、解析できるようになる。さらに、16ウェルキュベットの底面中央が透明であるため続けて光学顕微鏡や蛍光顕微鏡での観察が可能な点も実験操作を容易にしている。



 


今回紹介した4D-Nucleofectorが、神経細胞への遺伝子導入の分野で活用され、新たな研究成果を上げることを期待している。


最後に4D-Nucleofectorの仕様の概要を表にまとめた(表1)。従来機種であるNucleofector IIや96-well Shuttleデバイスの特長・長所を凝縮した装置であることがよくわかる。



 


(BioGARAGE vol.07より)



 



03/24: 効率的なルーチンのデータ蓄積で研究をドライブする

Category: General | Posted by: nishiyama

 


ライフサイエンス研究の黎明期から、その重要性が変わらない実験法は多く存在する。それらの実験法は感度向上、高速化、ハイスループット化など、様々な進化を遂げて研究をサポートしている。LabChip® GXIIは、DNA、RNA、タンパク質の電気泳動を高速化・多検体処理を実現した装置だ。同製品を導入した東京大学の大島研郎氏の研究は、大学における研究の中にうまくハイスループットの電気泳動解析装置を導入した一例だと言える。


 


ファイトプラズマ研究の最前線


大島氏が現在研究を行っている東京大学大学院農学生命科学研究科植物病理学・植物医科学研究室は、ファイトプラズマ研究の“メッカ”である。ヨコバイなどの昆虫を介して様々な植物に感染するこの細菌は、難培養性であることが古くから知られており、それが研究を行う上での障壁の1つでもあった。2000年代に入ってようやくゲノムが解読され、それを機に分子生物学的なアプローチが進みだした。大島氏はその研究の中心メンバーの1人だ。2009年にはてんぐ巣病という、植物の枝分かれが激しくなり、背丈が低い状態で成長が止まってしまう病気の原因を突き止めた。ファイトプラズマが出すTENGUというタンパク質が、オーキシンの合成に関わる経路を抑制することによって、病気を引き起こしていたのだ。



 


進む病原因子の特定


現在取組む研究の大きなテーマの1つが、ファイトプラズマが病気を引き起こす際に関係するタンパク質の同定だ。「ゲノムも決まり、病気発症の分子メカニズムを調べるための環境が整いました。でも自分が手を動かす時間が減ってしまってもどかしいです」と語る。大学教員となると研究方針を考案したり研究費の申請を行ったりという仕事が増える。限られた時間のなかでは、LabChip® GXIIが強力な味方になった。


「これまでのタンパク質の電気泳動だとゲルの作製や染色脱色で時間がかかっていましたが、LabChip® GXIIだとその時間を省くことができるので、研究を進める上で役に立っています。また、内部コントロールを利用することで違う日に行った電気泳動の結果とその日に得られた結果を比較できる点は、議論を正確に行う上で役に立っている機能です」。機械的に再現性のあるデータ蓄積していくという特性は、マニュアルの電気泳動にはない大きなメリットだ。


 


植物の病気を診断する植物病院®


大島氏が取組んでいるもう1つの大きなテーマに、植物の病気の診断・治療・予防の実践がある。東京大学大学院農学生命科学研究科植物医科学研究室が中心となって2007年に開設した東京大学植物病院®は、植物の病気の診断・治療・予防を目的に活動を行っている。ここには田畑をはじめ、果樹園や一般家庭の盆栽など様々なところから、病気が疑われるサンプルが運び込まれる。植物病診断の最前線となっている。


病気のマーカーとなる遺伝子領域のPCRによる増幅の有無を確認するなど、これまでの植物病理学のノウハウを活用した診断が日夜行われているため、サンプル数も膨大になるそうだ。


「運び込まれたサンプルの解析は技術補佐員の方にも手伝ってもらっています。一度に解析する数は平均数十あるのですが、LabChip® GXIIを利用することで1日にたくさんのサンプルを診断にかけることができます。コンピューターと連結している装置なので履歴を残すことが簡単な上に、泳動を行った時の低分子側の分解能が高いので解析を行う上で非常に助かっています」。96サンプルを1時間程で解析できるスピードが、植物病診断を支えている。


 


さらなるメカニズムの解明に向けて


「ファイトプラズマは非常に面白い細菌で、植物に感染する以外に昆虫にも感染することができます。どうやって昆虫の中で増殖するのかといったことはまだ謎に包まれています。特に、植物と昆虫という全く異なる生物種の両方に感染できるということは非常に興味深く、これから研究を深めていきたいですね」と大島氏は言う。


昆虫への感染や昆虫体内での増殖の分子メカニズムがわかれば、新たな植物病の予防法の開発にもつながる。植物病の分子メカニズム解明と、得られた知見をもとにした診断・予防・治療法の開発という、基礎と応用の境界を橋渡しする大島氏の研究は、植物病研究の最先端で今後さらに重要さを増していくに違いない。新たな分子メカニズムに関する知見と植物病院®の成果に大きな期待が寄せられる。


 


(BioGARAGE vol.07より)


 



03/19: RNA-タンパク質相互作用の本質を探る

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セントラルドグマを構成する主要な生体成分として知られながらも、未だに新たな発見が続き興味の尽きることのないRNAの世界。リボソームやスプライシングなど、タンパク質との相互作用が関わってくる場面は多い。さらに近年では小分子のRNAの機能性にも注目が集まる。現在、お台場の産業技術総合研究所(以下、産総研)でncRNAとタンパク質の関係に迫る研究を行う廣瀬哲郎氏にお話を伺った。


 


RNAの世界に飛び込む


「学生の頃は葉緑体についての研究を行っていたのですが、その時に葉緑体での遺伝子発現がRNAレベルで非常に複雑に制御されているということがわかってきて、RNAの研究に興味を持ち出しました」。廣瀬氏はRNAについてそう語った。RNAの研究を本格的に始めるため、世界でもトップレベルとされる研究室の中から、Joan Steitz教授(Yale大学)の研究室に留学したことが、自身の研究に大きな転機をもたらしたという。


「Establishした研究者の下で研究をする1つのメリットは、自分のアイデアを提案することで、それを自由にやらせてもらえることです。誰もやっていない実験系を作って研究を進めるのが自分のスタイルだったので、そういう意味でもいい経験になりました」という言葉通り、廣瀬氏はSteitz研究室でsnoRNAのプロセッシングを調べるためのcellfreeの実験系を構築し、研究を進めることとなった。


 


予想外の結果


哺乳類の場合、snoRNAはイントロンがプロセッシングを受けることで作り出されるが、その過程でタンパク質と複合体を作り、最終的にsnoRNPとして機能する。廣瀬氏が取り組んだのは、snoRNAの特定の場所に結合する因子の同定であった。


まずラベルしたRNAとタンパク質をUVでクロスリンクさせる実験を行ったところ、SDS-PAGEで約160kDaのバンドが確認された。すでに報告されていたヒトのスプライセオソームC1複合体のプロテオーム解析の結果から、2つの候補が浮かび上がった。1つはmRNAのスプライシングへの関与がわかっていたSRm160、もう1つはKIAA0560というコードが付けられた、機能未知のタンパク質だった。免疫沈降の実験などを組み合わせて研究を進める中で、その正体がKIAA0560であることが判明した。KIAA0560をIBP160と命名した。さらにIBP160がSRm160とダイマーを形成することも判明した※1。「良い意味で予想が裏切られましたが、こういったところが研究の面白いところですよね」。



 


第2の転機


2003年末に日本に戻り、2005年に入り産総研に自分の研究室を構えることができた。テーマはSteitz教授の下で行っていたsnoRNAから、当時注目が高まりつつあったncRNA(ノンコーディングRNA)に変え、全く新しい挑戦が始まった。


「ncRNAはcellfreeで解析が行えるような実験系がありませんでしたし、その頃発表されていた網羅的解析の結果と表現系や個々の現象をつなげる実験系もありませんでした。ですが、ここに来てようやくncRNAで面白いものが見つかり始めています」。廣瀬氏らが2009年に発表した論文では、0.5μmほどの大きさを持つ核内のリボヌクレオタンパク質の構造体であるparaspeckleの構造維持にMENε/βというncRNAが関与していることを突き止めた。さらにCLIP法(UVCross-Linking and Immunoprecipitation)を利用することで、MENβがparaspeckleタンパク質であるp54と結合することも示している※2。


 


細胞内のRNA-タンパク質相互作用を正しく捉える


RNA結合タンパク質は表面電荷などにより非特異的な結合を起こしやすいことが知られている。このため、何も処理をしないまま細胞を壊してしまうと本来なら結合しないものがとれてきてしまう可能性がある。この点、CLIPは細胞内の環境を反映した状態での解析が可能なで、「より正確にRNAとタンパク質相互作用を研究できる」と廣瀬氏は言う。一方で、回収率が極端に低いという弱点もあるそうだ。RIP(RNP-IP)もRNA-タンパク質相互作用の研究でよく用いられるが、前述の理由により結果の解釈には注意を要する。「RIPでもホルムアルデヒドで細胞を処理してから免疫沈降を行うことで、非特異的な結合を減らすことができるという報告もあります。RNA結合タンパク質の場合は、CLIPやRIPをうまく組み合わせて結果を正しく解釈することが何よりも重要ですね」。


将来的にはタンパク質でいうα-ヘリックス、β-シートのような「構造単位」、Znフィンガーやロイシンジッパーのような「機能ドメイン」がRNAの中にあることを明らかにしていきたいと語る廣瀬氏。ncRNA研究の中で次の誰もやっていない実験系ができた時にその扉が開かれるに違いない。


 


※1 Hirose, T. et al. (2006). A Spliceosomal Intron Binding Protein, IBP160, Links Position-Dependent Assembly of Intron- Encoded Box C/D snoRNP to Pre-mRNA Splicing. Mol. Cell 23, 673-684.


※2 Sasaki, Y.T. et al. (2009) MENepsilon/beta noncoding RNAs are essential for structural integrity of nuclear paraspeckles. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106, 2525-2530.


 


(BioGARAGE vol.07より)


 



03/14: 化学の視点で生体内現象を捉える

Category: General | Posted by: nishiyama

 


20世紀の生命科学はタンパク質-タンパク質、タンパク質-核酸の関係性について多くの知見を積み上げてきた。点と点だった関係は今や点と線、そして面と大きな枠組みの中で考えられるようになってきた。さらに生きている状態での分子のダイナミクスと、さらなる高みを目指す。Chemistの視点でそこに挑戦する東京大学大学院薬学系研究科花岡健二郎氏の研究は、生体内分子の挙動を考える上で大きな示唆を与えてくれる。


 


蛍光プローブを利用したイメージング


「蛍光プローブは1細胞でオルガネラレベルまで観察できるという空間分解能の高さが特徴です。その他、感度や時間分解能も高く、また観察に大型の機器も必要ないので、研究を行う場合には一番使いやすいプローブだと思います」と花岡氏は語る。生物学の疑問を解決すべく、現在はPETやMRIなどあらゆるイメージング技術が活用されている。もちろん、それに応じてイメージングプローブを開発が進み、生体現象の可視化技術が発展をみせている。とくに花岡氏は、蛍光プローブについて細胞の中で起こる化学反応をうまく利用することで、オン・オフの効くうまいケミカルスイッチを狙って開発を進めている。プローブ作製の設計思想から、Chemistとしての視点が感じられる。Biologistには見えていない世界が見えているようだ。


 


電子の流れを考える


花岡氏が所属する薬品代謝化学教室の長野哲雄教授を中心としたメンバーは、蛍光団の性質を利用することによって蛍光強度をコントロールできることを見いだした。例えば、代表的な蛍光プローブであるフルオレセインは、分子構造を電子供与部と蛍光団に分けることができる。そこで分子設計をうまく行うことで、電子供与部と蛍光団の間を電子が移動できる。この場合、蛍光団からの蛍光は低く抑えられている(図1)。



一方何らかの理由で蛍光団に電子の移動が起こらなくなると、蛍光団は強い蛍光を発する。光誘起電子移動(PeT)と呼ばれるこの現象を利用することで、蛍光強度を変化させることを見いだし、新しいプローブが生まれた。生体内の現象を利用して電子の移動をコントロールし、蛍光を操るのが長野氏の研究室の1つの特徴だ。この発想は今の花岡氏の研究にも息づく。花岡氏が最近発表した蛍光プローブではZn2+の配位による分子内での電荷移動(分子内電荷移動:ICT)の変化を利用している。作られたプローブはZn2+の配位前と後で蛍光が100倍近い変化を示した。


 


生体内部のより効率的な可視化を目指して


個体の内部を可視化できるようにしたいと研究の方向性について語る花岡氏は、光の透過性の高いMRIと近赤外に着目する。「最近発表したばかりのQCy5というプローブは、生体内の近赤外を利用して低酸素状態を可視化します。これは、低酸素の還元状態になっときにプローブ中のジアゾ結合が解裂し、蛍光を抑えていた電子供与部が切り離されることを利用しています(図2)」。そう言いながら見せてくれたラットの肝臓を使った実験の映像では、プローブをまぶした後に擬似的に虚血状態にするとプローブによってあっという間に肝臓に色がついていく様子が映し出された。近赤外はまだ表層から数mm〜数cmの所までしか可視化ができていないが、技術の進歩でさらに深部まで観察できるようになることが期待される。



MRIでは、動脈硬化をターゲットに研究が進む。新しく開発したプローブは脂肪をよく染めるBODIPYとい蛍光試薬と、MRIによく用いられるガドリニウム錯体を組み合わせた。水溶性が高いために動脈硬化巣になかなか入らないガドリニウム錯体と脂溶性のBODIPYを組み合わせたことで、動脈硬化巣への浸透性が見事向上した。さらに、蛍光試薬としての側面も持つBODIPYのおかげで、蛍光観察によるMRIデータの補完も可能になった。


化合物のプローブを生体内の現象にうまくマッチさせることは、新しい生命科学研究を開拓する可能性を秘めている。生体内でうまくプローブとして機能し、体内動態も予測ができるような分子設計法を確立したいと語る花岡氏の今後の研究成果が楽しみだ。


 


(BioGARAGE vol.07より)



 



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