産官学諤
00号:「産学連携が技術と人を磨く」
東京大学産学連携推進本部・事業化推進部長各務茂夫氏インタビュー
日本には19 世紀から大学の技術を事業化してきた歴史がある。味の素、帝人、第一三共・・・日本を代表するこれらの企業は、いずれも大学の技術を事業化するために設立された元ベンチャー企業だ。大学の独立行政法人化という時流の中、産業界だけでなく学術界からも、産学連携に熱い視線が集まっている。そこで、国内でも屈指の産学連携組織である東京大学産学連携本部の各務教授に、これからのバイオ分野の産学連携について聞いた。
産学連携は、取組みの結果どこに向かうのか
--日本で産学連携を活性化する取組みが始まって10 年ほど経ちます。現在どのような成果が得られているでしょうか。
各務 産学連携の一環として共同研究が活性化してきました。東大だけでも300 名を超える研究者が民間企業との共同研究に携わっています。ただ、それは産学連携の一部であり、産学連携の歴史の長いアメリカでは、大学の技術をもとにベンチャーを設立し、いかにして事業化・産業化するかということが主に考えられています。実際、アメリカでは大学の知的財産権の約3 分の2 がスタートアップ企業やベンチャー企業を含む中小企業にライセンスされます。中小規模の企業が大学の技術を事業化し、その出口(EXIT)としてIPO や、大企業によるM&Aが一般化しているのが現状です。
--日本ではバイオベンチャーが数社IPO しましたが、その後バブルがはじけ、IPO 基準は非常に厳しく設定されました。バイオベンチャーに対する風当たりは非常に強く感じられます。
各務 これぞ大学発バイオベンチャーの成功ロールモデル、というものが出れば状況は好転すると思います。日本では2004 年の国立大学法人化以降、大学において企業と研究者をブリッジする機能や、知的財産をマネジメントする機能が充実してきました。また、製薬業界では将来収益を生むと考えられる開発ラインが少ない、いわゆるパイプラインギャップの話もあります。そして、お金の話も重要です。ベンチャー運用のために資金が必要ですが、将来的には公的年金等の長期のリスクマネーの一部が株式市場やプライベートエクィティへ流入せざるを得ない構造になると考えられます。今後は大学の体制、パイプラインギャップそして資金の面を考えれば大学の技術を事業化する産学連携、とりわけ大学発ベンチャーの動きは活発になると考えられます。
基礎研究の発展と人材育成に寄与する、産学連携の新たな側面
--大学では産学連携にネガティブな印象を持つ研究者の方も多いと伺っています。
各務 それは考えようですが、東大では年間約600件の発明が生まれます。また、共同研究に携わる教員も多数おります。民間等との共同研究費は合計で約45 億円程度あります。これらの数字は海外の主要な大学に比べても決して少なくはありません。大学のミッションが研究開発型であるMIT やスタンフォード大学は風土として企業との交流は活発でしょうが、そこでも企業との交流をネガティブに捉える研究者はいます。ただ、ベンチャー企業や応用研究に携わる研究者の中には、「事業化に近づくことによって基礎研究にポジティブなフィードバックがある」と考える研究者もいて、そういう意識の下に産学連携に積極的に関わる研究者もいると思います。
--最後に、各務先生は産学連携が技術だけでなく人も成長させることが出来るとお考えと伺いました。
各務 共同研究はポスドクなどの若手研究者の成長の場にも成り得ると考えています。大学と企業の間でプロジェクトを推進する中で、コミュニケーション能力やマネジメント能力、ビジネスのことも理解する。その経験を通して研究者として必要なスキルの向上、中には共同研究を行う企業への就職、また転じてベンチャーの経営者として若手研究者が羽ばたく可能性が見えてきます。大学との共同研究に取り組む日本企業の中には「20 年後のことを大学と一緒に考えよう」というスタンスで共同研究を行っている会社もありますが、この中で、ポスドク研究者の良いロールモデルが生まれれば、全体がいい方向に動き、いい人材も、資金も共同研究に集まってくると思います。大学にも外部資金が入り、研究、ひいては教育にも資金を回すことが出来る。そのような好循環が始まる可能性大です。
産学連携の旗の下、日本でも大学と企業の共同研究プロジェクトが立ち上がり、バイオ産業発展を目指した取組みが始まった。一方で、産学連携は基礎研究へも正の影響を及ぼし、更には若手研究者のスキルアップの場としてもその役割を拡大しようとしている。異なる視点との積極的な交流、それはバイオ学術界・産業界共に重要な将来へのキーワードとなるであろう。大学発の技術が事業化するのはこれからがいよいよ本番だ。

