連携最前線

00号:「ジーンシリコン®の活躍」

東洋鋼鈑株式会社と山口大学の連携によるDNAチップ開発

DNAチップに求められる性能、それは再現性だ。再現性の向上には、プローブDNAの配列や精製度だけでなく、DNAチップの基板の技術開発が欠かせない。今、東洋鋼鈑株式会社が開発した全く新しい素材「ジーンシリコン®」がDNAチップの基板として注目を集めている。

DNAチップによる診断技術の鍵は基板が握る

山口大学岡正朗2003 年、Lancet 誌に「肝臓がん摘出後の、肝臓における早期再発を予測するマイクロアレイについて」という論文が発表された。肝臓がん摘出後の患者の内、88%の1 年以内の再発と、95%の非再発をマイクロアレイで予測することに成功したという内容だ。研究を行ったのは山口大学医学部消化器・腫瘍外科の岡教授のグループ。DNAチップに一早く注目し、肝臓がんの診断技術開発に取り組んできた。「臨床現場で使うためにはまずはコストが低いことが重要だ。」と岡教授は語る。臨床の現場では数千の遺伝子を解析できるDNAチップで患者検体を検査することは、コスト面で困難だ。そこで肝臓がん再発に関連する遺伝子を絞込み、数十の遺伝子だけをスポットしたDNAチップをオーダーメイドで作製したときに、問題は起こった。検出時のレーザー光が基板に乱反射してしまうこと、またハイブリダイズの効率が悪く、結果的にバックグラウンドが非常に高く出てしまい、全くデータが得られなかったのだ。岡教授は当時の落胆を振り返ってこう語った。「DNAチップ技術は基板の問題を避けて通れないのです」。

ジーンシリコン®の実力

ジーンシリコン基板の重要性を認識し、情報を集めていた岡教授の元に、当時参加した地域クラスター事業のコーディネーターから東洋鋼鈑株式会社のDNAチップ用基板、ジーンシリコン®の話が舞い込んだ。ジーンシリコン®は3mm 角のシリコン基板にダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)をコーティングしたDNAチップ基板だ。その特徴は、プローブの高い結合能と基板表面の平滑性にある。規則正しく並んだ炭素原子に導入したカルボキシル基を介することで、共有結合により強力に、かつ高密度にプローブを基板に結合させることが出来る。また、DLC でシリコンを被覆することで表面の平滑性を確保することができ、検出時のレーザー光が散乱することなく、バックグラウンドが低い状態で検出を行うことが出来るのだ。基板はコンパクトで48 のプローブをスポットすることが出来るため、絞り込んだ遺伝子を解析することに適している。岡教授の求める基板がここに見つかった。ジーンシリコン®を用いた肝臓がん再発の予測技術開発は順調に進み、臨床応用への取り組みが検討されている。

DNAチップの臨床分野における実用化に向けて

ジーンシリコン「これからは抗がん剤の効果や副作用を遺伝子から予測して選択する時代が来ると思います。その方法論としてDNAチップは大きな可能性を持っています」。岡教授はDNAチップの可能性について語る。遺伝子多型を判別するチップは東洋鋼鈑株式会社と開発し、現在では100 例を超える患者サンプルで100%の的中率をあげることに成功している。そして岡教授の研究はDNAチップによる診断技術の全自動化に向かっDNAチップ技術を支える基板ジーンシリコン®の活躍ている。遺伝子の発現量を解析する場合、そのデータは検査する人の技術に大きく左右されるからだ。「我々にできるのは、患者検体を用いた実験データを積み重ねることです。実際に臨床現場に普及できる診断技術を開発するには産学連携しかありません」。患者のためになる技術を開発すること。その使命の実現のために、岡教授の研究は続く。

数千の遺伝子の挙動を迅速に解明し、スクリーニング技術として期待を集めたDNAチップ技術。しかし再現性や定量性の確保、コストや操作性など実用化の壁となる問題が山積していることも事実。DNAチップの可能性を最大限に活用するための新たな基板ジーンシリコン®が、DNAチップを用いた診断技術の未来を切り拓く。

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