連携最前線

00号:「離島の地域再生への挑戦」

島根県隠岐郡海士町の産学連携レポート

 四方を海に囲まれた日本海に浮かぶ離島、島根県隠岐郡海士町。財政破綻寸前だったこの町は、地域再生の柱に、最先端知識・技術を基にした自然環境の維持と持続的な島の発展の両立を掲げる。島の挑戦は、先端技術によって地域活性化がもたらされる新時代の到来を予感させる。

海産物事業発展の副作用

島の主要特産品は海産物。これらの海産物を都市部の消費者に販売するために、町は販売会社を設立し急速冷凍の特許技術を導入した。技術導入の成果は着実に現れ、都市向けの海産物販売事業は順調に成長したが、その一方で、養殖の大規模化により大きな問題が顕在化した。代表的な海産物の一つであるいわがきの生産拡大にともない、養殖場周辺の海底の状況(底質)の悪化が進行し、食用に適さないかきの発生率が上昇し始めたのだ。それに加え、温暖化に伴う海洋環境の悪化で、一部の海岸では磯焼けが懸念されている。磯焼けが進行すると海草が減少し水生生物が激減する。水産業に頼る島民の生活にも大きな打撃を与えかねない。このような中、主要産業の持続的発展を目指し、島は先端技術の開発に新たな活路を求めた。

島内の資源を循環させろ

カンニャボ底質悪化の原因は、いわがきの養殖に伴う海中の栄養塩の増加にある。栄養塩の増加を抑えバランスを保つことができれば、良質な底質を維持することができる。さらに、この栄養塩バランスの維持を、栄養塩で生育し産業利用可能な水棲動植物によって行うことができれば、底質維持と新たな資源創出の両方を同時に達成することができる。そこで着目したのは、磯焼けの防止にもつながる海藻の生産だ。一見、何の変哲もないこの事業だが、ユニークな点は海藻を食用ではなく、島の資源循環の中心にしようとしている点だ。海藻の利用法は大きく二つ。一つは、重要な産業である農牧業に使う飼料や肥料への海藻の利用。そしてもう一つは、クリーンバイオエネルギーとして近年注目されているバイオマスへの海藻の利用。海藻からエタノールを抽出する技術を開発し、島内のエネルギーの一部をまかなおうというのだ。それに加え、海藻生産の取り組みには更なる目論見がある。それは、海藻により吸収された二酸化炭素から排出権を生み出そうというものだ。町の海藻が吸収する二酸化炭素の排出権を都市部へ売却することで、カーボンオフセットを実現しようというのである。この挑戦は、既に始まっている。

自立した島内産業を前提にした外部連携

事業のカギを握る海藻を活用した循環システムの構築は、専門の研究機関を持たない同町が単独で推進することは不可能である。そこで同町では現在、東京海洋大学と共同で沿岸の調査や技術開発を進めている。さらに、海藻を育てるための藻場の構築では、海洋事業で実績を持つ島外の民間企業から設備や技術を積極的に導入している。ともすれば大学や他地域との連携に二の足を踏みがちな地域も多い中、海士町の積極的な外部連携への姿勢は際立つ。島外との積極的な連携体制を築きながら、島内の企業や団体が主体的に地域再生に関わる、というのが海士町のスタイルだ。

地域振興は現代日本が抱える大きな課題だ。その対応策として地域資源の活用、高付加価値化が声高に叫ばれている。海士町も最先端の急速冷凍技術を取り入れ、海産物産業の発展を実現したが、発展する産業は環境問題をももたらした。その解決に新たな科学技術を持って取り組む海士町の活動は始まったばかり。その取組みは地域から全国へ、地域振興と共にサステイナビリティーという文化を広げていくだろう。今後の海士町の活躍に期待だ。

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