連携最前線
00号:「大学を活用する中小企業の戦略」
福島県中小企業×東京農工大学の連携現場レポート
生活習慣が激変し疾病構造が変化したことで、健康に対する国民の意識が変わりつつある。健康増進法や特定健康診査といった国民の健康状態改善のための様々な取り組みも始まった。このような社会情勢を反映して、健康食品の市場は2003 年には1 兆円を超え、現在も好調を維持している。拡大する市場は一方で、健康食品による健康被害や根拠のない商品の乱立といった社会的な問題を引き起こした。今回は、産学連携によって自社ならでわの道を切り拓こうとする健康食品企業の取組みを追った。
地域の問題解決から事業が生まれた
東京駅から新幹線で80 分、東北地方では仙台に次ぐ第2 位の経済圏を誇る福島県郡山市。高層ビルの立ち並ぶ今の街並みからは想像できないが、この地域はかつて養蚕業の盛んな地域として知られていた。今では海外からの安価な輸入絹糸に押され、国産絹糸の価格は低迷し従事者の高齢化なども相まって国内養蚕業は衰退の一途をたどる。郡山市も例外ではなく、その結果として周辺地域には用途を失った遊休桑畑が広がる。市も遊休桑畑の利活用に力を入れるが、他地域と比して個性を発揮するほどの成果は生まれていない。そのような状況の中、にわかに注目を集めているのが、桑畑に自生する「カンニャボ」と呼ばれる陸生貝類の一種、キセル貝を用いた食品開発事業だ。
シーズは地域発!民間療法を商品に
カンニャボは昔から” 医者いらず貝” と呼ばれ、福島県では民間薬として伝わっていた。主に桑畑に生息するその貝は肝臓の病気に効く、二日酔いに効くといわれ、粉末にして飲まれていたのだ。これに目をつけ、商品化したのが株式会社カンニャボである。創業から20 年、遊休桑畑の活用組合と協力し、カンニャボの収穫・加工製造・販売を行っている。事業は順調に推移し、県内の多くの薬局でカンニャボ製品が取り扱われるまでに成長した。次第に他地域から問い合わせも増え、全国への展開が見え始めたが、そこには大きな壁が立ち塞がった。まず、大量の原料が確保できないという問題、そしてカンニャボの効能に関する科学的エビデンスの不足という問題だ。
大学との共同研究で見えてきた壁
同社では、これまでにカンニャボの健康機能に関する共同研究をいくつかの大学と行った経験がある。その結果、肝機能への有効性を間接的な現象として捉えることができたが、有効成分の特定には至らなかった。同社社長の遠藤氏は、これらの経験を通じて、大学との共同研究の難しさを感じる一方で、小さな組織において大学の技術や知見を自社の研究開発に活かすことの重要性に気付いた。しかし、大学との共同研究契約や研究成果の取り扱いなど、元々その分野に詳しい人材を持たない小さな組織では大学との交渉は煩雑で困難なことも多く、結果的には大学との共同研究から遠ざかってしまった。
産学連携コーディネーターの存在で共同研究は広がりを見せる
一連の共同研究が終わってから数年が経ち、株式会社カンニャボは2008 年9 月、東京農工大学普後一教授との間で共同研究をスタートさせた。きっかけとなったのは、産学連携コーディネーターである株式会社リバネスとの出会いだ。研究テーマは、カンニャボを養殖し安定的に生産する技術の確立。生産技術確立は、これまでにも自社で様々な方法を試みていたが、芳しい結果は得られておらず、会社設立以来の悲願ともいえるテーマだった。この技術開発を推し進めるため、産学連携コーディネーターは全国の大学等研究機関から研究者の探索を行い、最適だと考えられた東京農工大学の普後教授との共同研究を提案した。遠藤社長と普後教授との綿密なやりとりの中で、研究内容、研究期間、研究費用まで双方の要望をもとにまとめあげた。さらに、産学連携コーディネーターは知的財産の取り扱い等の契約内容に関して、遠藤社長を代弁する形で大学との交渉に当たった。煩雑な大学との交渉の手間とコストを大きく削減し、速やかに研究活動を開始する支援を行ったのだ。その結果、共同研究契約が順調に締結され共同研究は開始した。テーマは「カンニャボの増産技術開発と有効成分の分析」。研究は緒に就いたばかりだが、地域産品の高付加価値化を目指し、今日も共同研究は進む。
中・小規模の地域企業にとって、一からの研究開発は資金的にも人的にも難しい。大学の研究力を活かした事業推進は有効であるという意識はあるが、大学という高い敷居をまたげずにいる中・小規模の地域企業も多いのが現状だ。産学連携コーディネーターの活躍で、このような地域企業のシーズに光が射すことは、地域企業や大学研究の活性化、ひいては地域の振興に繋がるだろう。

