研究活性化計画

00号:バランスとの戦い

北里大学理学部生体防御学講座 井上浄 助教

北里大学 井上浄助教

CDデビューの話があった。実現こそしなかったが、当時ライブハウスで競演した仲間には今では誰もが知るバンドがいたことからも、大学時代にバンド活動にどれほど没頭したかは推し測ることが出来る。その代わり大学の授業の記憶はあまり無いと言う。それでもバンドと学業のバランスを取り、薬剤師国家試験を見事乗り越え、薬に興味を持つきっかけとなった免疫学の研究をするため、大学院に進学。今度は研究に没頭する毎日が始まった。

井上さんが注目しているのはヘルパーT細胞のバランスだ。ヘルパーT細胞は情報伝達機能を持つタンパク質、サイトカインを産生し、免疫応答を調節する機能を持つ。また、産生するサイトカインの種類やその特徴からTh1、Th2、Th17、Tregに分類され、これらのバランスによって生態の工場制が保たれていることが知られている。ガン末期にはこのバランスが崩れること、またバランスが崩れることでウイルス感染に対する抵抗性の低下、アレルギー疾患などの症状が現れることも報告されている。このバランスを制御することで、癌やアレルギーの予防法及び治療法を確立すること。それが、自らに課したミッションだ。

このミッション解決にあたり、同氏はオリゴDNAを武器に選んだ。CpGモチーフ(5’-purine-purine-cytosine(C)-guanine(G)-pyrimidine-pyrimidine-3’)と呼ばれる塩基配列を含むオリゴDNA(CpG-ODN)は、抗原提示細胞のサイトカイン産生や抗原提示能の増強などを誘導し,Th1による免疫応答を引き起こす(1)ことが報告されている。このことに着目し、CpG-ODNによってヘルパーT細胞のバランスを制御できれば、アレルギーの治療が出来ると考えた。そしてモデルマウスを用いた実験により、CpG-ODNを皮膚に塗布することでアレルギー性皮膚炎による皮膚の損傷が抑えられることを証明(2)し、CpG-ODNがアレルギー性皮膚炎の治療薬になる可能性を示唆した。

休日は1歳になる長男と奥さんと3人でリラックスして過ごす。「これが新たなアイディアを生む原動力になるんです」と語る。生体の根源的な反応である免疫応答に潜むバランスを制御するという壮大なミッションへの挑戦は、まだ始まったばかり。研究と家庭のバランスを取りながら、井上氏は今日も黙々と実験台と向き合う。

(1) Klinman DM, Currie D, Gursel I, Verthelyi D.
Use of CpG oligodeoxynucleotides as immune adjuvants. Immunol Rev. 2004 Jun;199:201-16. Review.
(2) Inoue J, Aramaki Y.
Suppression of skin lesions by transdermal application of CpG-oligodeoxynucleotides in NC/Nga mice, a model of human atopic dermatitis. J Immunol. 2007 Jan 1;178(1):584-91.

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